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福岡家庭裁判所久留米支部 昭和48年(少)467号 決定

少年 I・S(昭三二・二・一一生)

主文

この事件について当裁判所が、昭和四八年四月二三日なした審判開始決定を取消す。

この事件について当裁判所が、昭和四八年五月八日なした少年を家庭裁判所調査官水城法祐の観護に付する旨の決定を取消す。

この事件について審判を開始しない。

理由

(昭和四八年四月一四日付検察官送致書の審判に付すべき事由の要旨)

少年は

一  昭和四八年二月一日午後一〇時ごろ、大牟田市○○×××○島○子方において

二  同月一六日午後七時三〇分ごろAと共謀し、同市○○○町××の×○田○雪方において、

三  同日午後七時四〇分ごろAと共謀し、同市○○××の××番地○山○男方において、

四  同月二八日午後七時三〇分ごろ、同市○○×××の××○崎○郎方において、

五  同年三月一日午後六時三〇分ごろ、B、Aと共謀し、同市○○×××の×、○富○ド○方において、

六  同月二一日午後七時ごろ、CもしくはDと共謀し、同市○○○×の×○田○雄方において

それぞれ、金品を窃取したものである。

(本件送致前後の経過)

一  少年は、昭和四八年三月二七日、少年の自供および犯行現場の足跡と一致するサンダルの所持により、窃盗容疑を受け、大牟田警察署において緊急逮捕され

二  同日ならびに同月二九日司法警察員に対し、前記送致事実六の非行がある旨供述し、

三  同日勾留のための手続をした検察官ならびに裁判官に対して非行事実を自認し、大牟田拘置支所に勾留する旨の勾留状が発せられ、

四  同年四月二日司法巡査に対し、前記非行の共犯者はAであると訂正供述し、

五  同月五日司法巡査に対し、前記送致事実一ないし五の非行がある旨供述し、同月六日検察官に対しても同旨の自供をなし、なお捜査の必要があると認められて、勾留期間を同月一四日まで延長され、

六  その後の司法巡査の取調べに対し、同月七日四件、同月九日九件、同月一〇日四件、同月一二日五件の同種窃盗を自供し、

七  同月一四日当裁判所において観護措置の手続のための調査をした裁判官に対しても、前記非行事実をすべて自認し、福岡少年鑑別所に送致されていたところ、

八  同月二四日司法警察員に対し、従前の自供はすべて嘘言であり、窃盗は全くしていない旨供述するにいたり、爾来、当裁判所調査官および裁判官の調査においても、その主張を維持している。

九  当裁判所は、昭和四八年五月八日少年を福岡少年鑑別所に送致する決定を取消し、同日より福岡家庭裁判所調査官の観護に付していたものである。

(当裁判所の判断)

一  少年の母I・T子の昭和四八年五月一日付司法警察員に対する供述調書および司法巡査の昭和四八年四月五日付捜査報告書ならびに昭和四八年五月八日審判期日における参考人○智○の陳述によると、少年は昭和四七年一二月二一日から昭和四八年二月八日まで、○智○方で塗装工として稼働し、昭和四八年二月一日にはその作業の都合から、熊本県八代市に滞在していた事実が認められ、右の事実によると、前記送致事実一が少年の所為でないことが明らかである。

二  司法警察員の昭和四八年六月四日付捜査報告書によれば、昭和四八年四月一八日大牟田警察署において、窃盗被疑者として逮捕した○野○作(昭和二五年六月二七日生)の供述ならびに証拠により、前記送致事実の三および四が右○野○作の所為に相違ない旨判明した事実が認められ、右の事実によれば、送致事実三および四が少年の所為でないことが明らかである。

三  Aの昭和四八年三月三一日付司法警察員に対する供述調書によれば、同人は少年と共に窃盗行為をしたことは全くないと供述している事実が認められ、右の事実と前記○野○作には、なお多数の余罪がある旨の報告に徴すると、前記送致事実の二および五についての少年の昭和四八年四月五日ないし同年四月一四日までの供述の真実性は疑わしく、右供述が措信できないとすると、少年に前記非行があつたことを認めるに足る証拠がないので、右事実に基いて少年に審判を開始することはできない。

四  少年の昭和四八年五月二日付司法警察員に対する供述調書によれば、前記送致事実六についての昭和四八年三月二七日ないし、同年四月二日の司法巡査に対する少年の各供述ならびに同年三月二九日および同年四月一四日裁判官に対する少年の各陳述の真実性はいずれも疑わしく、右各供述ならびに陳述が措信できないとすると、少年に前記非行があつたことを認めるに足る証拠がないことに帰する。

五  以上により検察官から送致された審判に付すべき事実のすべてについて、これを少年の非行とするに足る証拠がないので、本件については少年を審判に付することができないものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 境野剛)

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